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東電は発電部門を切り離し送電特化で再生を!!
高橋 洋・富士通総研 経済研究所主任研究員に聞く

「発送電一貫」「地域独占」「総括原価方式」で特徴づけられる日本の電力システム。より安価で安定的な電力供給を実現するためにはどう改革すべきなのか。さまざまな立場の有識者に意見を聞くシリーズの第5回は、経済産業省の電力システム改革専門委員会の委員で、海外の電力事情にも詳しい富士通総研経済研究所の高橋 洋・主任研究員にインタビューした。
やる気満々のドイツの送電会社、日本進出も準備
――最近、ドイツの発送電分離の実情を調査に行かれたそうですね。
11月後半にドイツへ行き、発送電分離後の実態について調べてきた。ドイツでは発送電一貫の大手電力会社が4社あったが、うち3社が送電部門を売却し、「所有権分離」(他の1社は「法的分離」)を行っている。そのうちの2社で、RWE社の送電部門が所有権分離されて生まれたアンプリオン社と、スウェーデンの電力会社が旧東独の電力会社を買収したバッテンファール社が送電部門を所有権分離してできた50ヘルツ社を訪れた。
両社とも、送電ビジネスはこれからモノになると、やる気満々だった。一つには、地域独占で、総括原価方式でリターンが入り、非常に安定しているからだ。それに、送電事業はつまらないビジネスかというとそうではなく、どうやって多様かつ大量の再生可能エネルギーを統合しながら停電が起きない仕組みを構築していくか、という点で非常にチャレンジングだと話していた。送電設備への投資は送電料金で確実に回収できる。こんなにやりがいがあっておいしいビジネスはないという。
特に50ヘルツ社は積極的で、日本にも是非進出したいと言っていた。50ヘルツは送電網に接続している電力のうち風力発電の割合(kWベース)が約30%と高いが、それでもうまく系統運用しており、気象予測などを含めて高いノウハウを持つ。日本でもこれから風力発電が増えるため、そうしたノウハウをコンサルティング的に売り込みたいということだろう。もし日本のある地域にそうしたノウハウが導入されれば、日本の送電分野でもいい意味での競争が生まれるのではないか。
――送電会社の出資構成はどうなっていますか。
アンプリオンは25%をRWEが引き続き保有、75%を保険会社や投資ファンドなどの投資家グループが保有しているため、実質的に所有権分離と言える。また、50ヘルツは60%をベルギーの国営送電会社が保有、40%を豪州の投資ファンドが保有しており、いずれも非上場だ。ちなみにもう一つの送電会社であるテネットは、オランダの送電会社のテネットが100%保有。法的分離のTransnetBWは、発電も行う親会社のEnBWがほとんどの株式を保有している。EnBWはフランスの電力会社EDFの傘下にあったが、2010年にドイツのBW州に持ち株が売却された。
アンプリオンの親会社であったRWEに、なぜ送電事業を売却したのかを聞いた。もともと発電事業はハイリスク・ハイリターンの一方、送電事業はローリスク・ローリターンでビジネスの性格が違うことに加え、ドイツの連邦ネットワーク庁が送電網の中立性を担保するために規制強化したことから、保有し続ける意味が薄れたという。さらに財務状況が悪化していたため、送電事業の売却でキャッシュを得て、原発が政策的に抑制される中で再生可能エネルギーによる発電事業へ投資している。
約150の小売り会社を自由に選べ、料金も電源構成も多様
――発送電分離の効果は出ていますか。
発送電分離はもともと競争を促進することに目的があり、確かに送電網は開放され、新規参入者も増えた。と同時にドイツの場合は、再生エネの導入が目的として重要だった。発送電一貫のときには、電力会社はコスト効率の悪い再生エネに投資したがらず、再生エネに接続するための送電網の投資にも消極的だった。ネットワーク庁が発送電分離を進めたことにより、送電会社は送電のことのみ考え、再生エネの接続や送電網の投資に前向きになった。
――電気料金はどうですか。
電気料金は、電力小売りが全面自由化された1998年から2000年にかけて3割程度下がったが、00年からは大幅に上昇し、現在は98年比で1.4倍ぐらいになっている。競争自体は活発化しているが、それを上回るスピードで税金や化石燃料の高騰、FIT(固定買い取り制度)のコストがかさんだためだ。これはドイツでも問題になっているが、だから自由化や発送電分離が失敗だったとは受け止められていない。
確かに発送電分離といっても、消費者というレベルでは直接のメリットは実感しにくいかもしれない。ただ、発送電分離によって競争が進み、再生エネの導入が増えれば、回り回って消費者にメリットとなる。やはり、電力会社や電源の選択肢ができたというのが大きいと思う。
98年以前のドイツは今の日本と同じで、RWEの営業している地域の需要家は、好き嫌いに関係なくRWEしか選べなかった。しかし今は、ネット上の操作だけで150社ぐらいから小売り会社を自由に選べる。電気料金も電源構成も多様だ。原発の電力を使っていない会社もたくさんある。太陽光発電だけの会社を選ぶことも可能だ。もちろん、送電線のうえではどの電気もすべて混じってしまうが、再生エネだけの会社を消費者が選択すれば、再生エネの普及に寄与することになる。
――ドイツ的なやり方は欧州全体でも主流になっていますか。
多くの国で小売りの全面自由化、発送電分離が行われ、主要国はほとんどが所有権分離だ。消費者の選択肢も広がっている。私は12年2月にはスウェーデンへ行き、再生エネ専門の小売り会社もヒアリングしてきた。同国は水力発電が盛んで、水力発電の電力のみなら安いが、風力ならやや高い。消費者は風力がよければ、高くても風力を選ぶ。
機能分離では送電網への投資が滞る懸念も
――一方、州ごとに体制が違う米国では所有権分離は少ないですね。
米国は「機能分離」の州が多い。米国は日本とも欧州諸国とも違い、国土が広く分権的で、歴史的に電力会社の数が極めて多い。テキサス州だけでも主要な電力会社が3つある。そのため、法的分離では送電部門の広域化が進めにくい。州単位でISO(独立系統運用機関)をつくることにより、州全体の送電部門をまとめて運用することを考えた。こうしたISOを使った機能分離によって、各州内では送電部門の中立化とともに広域化が進んだ。
一方、米国は私的所有権が強く尊重される国であり、政府が市場に介入することを極端に嫌うため、所有権分離はなかなかできないし、所有権分離をしたとしても、それだけでは会社の数が増えるだけで、送電部門の広域化は進まない。
――機能分離によって、所有権分離と同様の効果が上がっていますか。
系統運用機能を取り上げることによって、競争阻害行為はなくなる。また、州内での広域化の効果もまずまずと言えるだろう。ただ、機能分離の場合、電力会社は自ら所有している送電網を運用できず、レンタル料として送電料をもらうだけなので、中長期的に送電会社としてしっかり送電網に投資したり、送電会社同士でM&Aを通じて会社を大きくしたりするといった発想に乏しくなる。
だから欧州の人たちは、所有権と運用権は一致しなければいけないと主張する。法的分離はまだマシだが、機能分離はダメだと。所有権分離であれば、送電網を持っている主体が投資もする。それが大事なんだと強く信じている。米国のやり方は、欧州から見ると中途半端ということになるのだろう。
送電網の中立性を担保するISOの役割が重要
――日本での電力システム改革専門委員会の議論では、機能分離か法的分離という話になっています。
そうだ。私や八田(達夫)先生、大田(弘子)先生は法的分離を支持しているが、松村(敏弘)先生は機能分離がいいと言っており、意見が分かれている。どちらが一方的によくて、どちらが悪いということではない。
ただ、本当は所有権分離がいちばんいいという点では(改革派は)皆一致している。所有と運用が一致したほうが、いろんな齟齬は起きない。ただ私的所有権の問題もある。とりあえず法的分離をしておけば、送電部門にも送電会社としての独立心が芽生え、同じグループの中でも意識が変わってくる可能性がある。そうすれば、将来的な所有権分離につながりやすいのではないか、というのが私の考え方だ。実際、ドイツではそうやって所有権分離まで行っている。
また、今回の議論では、機能分離にするにせよ、法的分離にするにせよ、全国的なISO(広域系統運用機関)をつくるという方向になっており、そうであれば法的分離とISOの組み合わせのほうがベターだと私は考えている。
――ISOをどう機能させるかが重要ですね。
ISOは中立、公正なNPO(非営利団体)のような機関となる。人材的には、最初はある程度、電力会社の中央給電指令所(電気の使用量を監視しながら,電気の流れをコントロールする組織)にいる方々を移さざるを得ないだろう。ただ、意思決定に関わる幹部については、電力会社から独立した中立的な人をしっかり入れてマネージメントをしてもらうことが必要だ。
――人事権は誰が持つのでしょうか。
ISOのトップは経済産業大臣が任命する、電力会社からの出向は許さないといった方向にすべきだろう。大事なのは中立性をどう担保するか。ドイツのネットワーク庁のような独立した規制機関をつくり、監視することが望ましい。米国では、各州に公益事業委員会があり、発送電分離を推進したほか、連邦エネルギー規制委員会が送電事業の監督を行っている。
新政権による委員会答申の軽視や改革先送りに懸念
――日本での議論において、改革に対する電力会社側の抵抗はどうですか。
4カ月ぶりに議論が再開された11月7日のシステム改革委の議論では、電力会社側が発送電分離に対して、それまでよりかなり慎重、消極的になった印象があった。電力会社としては、これまでの発送電一貫体制を維持したほうがいいと思うのが当然かもしれないが、原発再稼働の遅れによる業績の悪化や、総選挙前で政権交代の可能性が高まっていたことも影響しているのではないか。
――総選挙後の政権交代によって、新政権はシステム改革委の議論をどこまで尊重するでしょうか。
システム改革委は「八条委員会」(国家行政組織法第八条に基づき、省庁の内局として設置される組織で、同法第三条に基づく「三条委員会」より独立性が低く、行政に対する強制力は持たない)であり、政府としてはその答申を煮て食おうが焼いて食おうが無視しようが自由。
ただ、これほど専門家が時間をかけて議論してきたことを、すべてガラガラポンにできるのかといえば疑問だ。自民党は原発再稼働について「3年以内に可否を判断する」としており、電力システム改革についてもそれに合わせて、やや時間を取ってやるということになるかもしれない。実質的な先送りの懸念はあるが、前向きな改革に期待したい。
東電処理とシステム改革は一対の問題
――公的管理下の東京電力を発送電分離のモデルにするとの議論もあります。
東電は今でも日本最大の電力会社であり、東電をどうするかはシステム改革委で議論してもいいぐらいだ。東電処理と国全体のシステム改革はほとんど一対の話といえる。しかし政府としては、東電は1企業であるし、原子力損害賠償支援機構との絡みもあるので、別問題として考えるべきということなのだろう。
政府は発送電分離として法的分離を志向しているように見える。その傍証として、政府の管理下にある東電は社内カンパニー制を採ろうとしている。広域のISOを強力な機関として一緒につくるのであれば、まずは法的分離でもいいだろう。
東電は送電事業特化、旧国鉄清算を参考に再生の仕組みを
東電は先日、福島の事故対応費用が当初想定の5兆円を大きく超え、10兆円を上回る可能性もあるとして、政府に新たな支援を求めた。これは、発送電分離を含む改革を受け入れるというシグナルともいえる。つまり、原発を含む東電のビジネスモデルの抜本改革が必要であり、その手段として発送電分離は止むを得ないということ。
その場合、選択肢として発電部門の切り離し(売却)が考えられる。東電の発電部門は今、厳しい状況にある。原発再稼働の展望が持てず、老朽火力発電所も多い。資金もない。であれば、発電ビジネスから手を引いて、送電ビジネスに特化したほうがいいのではないか。ただその場合、支援機構による支援の仕組みも変わってくるので、1企業だけでは判断できない。50%強の議決権を持つ政府(支援機構)が国策として考えていくしかない。
旧国鉄を清算する際にも、借金部分を切り離したうえで、残りの旧国鉄を地域分割して、民間企業として経営を立て直し、少しずつ借金を返していくという仕組みを作った。同様に、東電を一定のくびきから外し、その代わり発送電分離をする。世のため人のためになるような所有権分離の先駆けになってもらう。原発は国が管理下に置く一方、東電は送電ビジネスに特化して利益を上げ、少しずつ賠償、除染費用を返してもらう、といった仕組みが考えられる。
東電は日本全体の発電量の3分の1を占めており、東電の管内で発送電分離がうまくいって効果が実証されれば、他の地域でも同じ仕組みに変えていくのが望ましいという世論になるだろう。その意味でも東電は先行モデルとして適しており、それが東電自身の再生を早めることにもつながるので、頑張って欲しい。
たかはし・ひろし●1993年東京大学法学部卒、ソニー入社。2000年、内閣官房IT担当室主幹。07年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(学術博士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教を経て、09年より現職。経済産業省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員。同電力システム改革専門委員会委員。
(東洋経済)

「発送電一貫」「地域独占」「総括原価方式」で特徴づけられる日本の電力システム。より安価で安定的な電力供給を実現するためにはどう改革すべきなのか。さまざまな立場の有識者に意見を聞くシリーズの第5回は、経済産業省の電力システム改革専門委員会の委員で、海外の電力事情にも詳しい富士通総研経済研究所の高橋 洋・主任研究員にインタビューした。
やる気満々のドイツの送電会社、日本進出も準備
――最近、ドイツの発送電分離の実情を調査に行かれたそうですね。
11月後半にドイツへ行き、発送電分離後の実態について調べてきた。ドイツでは発送電一貫の大手電力会社が4社あったが、うち3社が送電部門を売却し、「所有権分離」(他の1社は「法的分離」)を行っている。そのうちの2社で、RWE社の送電部門が所有権分離されて生まれたアンプリオン社と、スウェーデンの電力会社が旧東独の電力会社を買収したバッテンファール社が送電部門を所有権分離してできた50ヘルツ社を訪れた。
両社とも、送電ビジネスはこれからモノになると、やる気満々だった。一つには、地域独占で、総括原価方式でリターンが入り、非常に安定しているからだ。それに、送電事業はつまらないビジネスかというとそうではなく、どうやって多様かつ大量の再生可能エネルギーを統合しながら停電が起きない仕組みを構築していくか、という点で非常にチャレンジングだと話していた。送電設備への投資は送電料金で確実に回収できる。こんなにやりがいがあっておいしいビジネスはないという。
特に50ヘルツ社は積極的で、日本にも是非進出したいと言っていた。50ヘルツは送電網に接続している電力のうち風力発電の割合(kWベース)が約30%と高いが、それでもうまく系統運用しており、気象予測などを含めて高いノウハウを持つ。日本でもこれから風力発電が増えるため、そうしたノウハウをコンサルティング的に売り込みたいということだろう。もし日本のある地域にそうしたノウハウが導入されれば、日本の送電分野でもいい意味での競争が生まれるのではないか。
――送電会社の出資構成はどうなっていますか。
アンプリオンは25%をRWEが引き続き保有、75%を保険会社や投資ファンドなどの投資家グループが保有しているため、実質的に所有権分離と言える。また、50ヘルツは60%をベルギーの国営送電会社が保有、40%を豪州の投資ファンドが保有しており、いずれも非上場だ。ちなみにもう一つの送電会社であるテネットは、オランダの送電会社のテネットが100%保有。法的分離のTransnetBWは、発電も行う親会社のEnBWがほとんどの株式を保有している。EnBWはフランスの電力会社EDFの傘下にあったが、2010年にドイツのBW州に持ち株が売却された。
アンプリオンの親会社であったRWEに、なぜ送電事業を売却したのかを聞いた。もともと発電事業はハイリスク・ハイリターンの一方、送電事業はローリスク・ローリターンでビジネスの性格が違うことに加え、ドイツの連邦ネットワーク庁が送電網の中立性を担保するために規制強化したことから、保有し続ける意味が薄れたという。さらに財務状況が悪化していたため、送電事業の売却でキャッシュを得て、原発が政策的に抑制される中で再生可能エネルギーによる発電事業へ投資している。
約150の小売り会社を自由に選べ、料金も電源構成も多様
――発送電分離の効果は出ていますか。
発送電分離はもともと競争を促進することに目的があり、確かに送電網は開放され、新規参入者も増えた。と同時にドイツの場合は、再生エネの導入が目的として重要だった。発送電一貫のときには、電力会社はコスト効率の悪い再生エネに投資したがらず、再生エネに接続するための送電網の投資にも消極的だった。ネットワーク庁が発送電分離を進めたことにより、送電会社は送電のことのみ考え、再生エネの接続や送電網の投資に前向きになった。
――電気料金はどうですか。
電気料金は、電力小売りが全面自由化された1998年から2000年にかけて3割程度下がったが、00年からは大幅に上昇し、現在は98年比で1.4倍ぐらいになっている。競争自体は活発化しているが、それを上回るスピードで税金や化石燃料の高騰、FIT(固定買い取り制度)のコストがかさんだためだ。これはドイツでも問題になっているが、だから自由化や発送電分離が失敗だったとは受け止められていない。
確かに発送電分離といっても、消費者というレベルでは直接のメリットは実感しにくいかもしれない。ただ、発送電分離によって競争が進み、再生エネの導入が増えれば、回り回って消費者にメリットとなる。やはり、電力会社や電源の選択肢ができたというのが大きいと思う。
98年以前のドイツは今の日本と同じで、RWEの営業している地域の需要家は、好き嫌いに関係なくRWEしか選べなかった。しかし今は、ネット上の操作だけで150社ぐらいから小売り会社を自由に選べる。電気料金も電源構成も多様だ。原発の電力を使っていない会社もたくさんある。太陽光発電だけの会社を選ぶことも可能だ。もちろん、送電線のうえではどの電気もすべて混じってしまうが、再生エネだけの会社を消費者が選択すれば、再生エネの普及に寄与することになる。
――ドイツ的なやり方は欧州全体でも主流になっていますか。
多くの国で小売りの全面自由化、発送電分離が行われ、主要国はほとんどが所有権分離だ。消費者の選択肢も広がっている。私は12年2月にはスウェーデンへ行き、再生エネ専門の小売り会社もヒアリングしてきた。同国は水力発電が盛んで、水力発電の電力のみなら安いが、風力ならやや高い。消費者は風力がよければ、高くても風力を選ぶ。
機能分離では送電網への投資が滞る懸念も
――一方、州ごとに体制が違う米国では所有権分離は少ないですね。
米国は「機能分離」の州が多い。米国は日本とも欧州諸国とも違い、国土が広く分権的で、歴史的に電力会社の数が極めて多い。テキサス州だけでも主要な電力会社が3つある。そのため、法的分離では送電部門の広域化が進めにくい。州単位でISO(独立系統運用機関)をつくることにより、州全体の送電部門をまとめて運用することを考えた。こうしたISOを使った機能分離によって、各州内では送電部門の中立化とともに広域化が進んだ。
一方、米国は私的所有権が強く尊重される国であり、政府が市場に介入することを極端に嫌うため、所有権分離はなかなかできないし、所有権分離をしたとしても、それだけでは会社の数が増えるだけで、送電部門の広域化は進まない。
――機能分離によって、所有権分離と同様の効果が上がっていますか。
系統運用機能を取り上げることによって、競争阻害行為はなくなる。また、州内での広域化の効果もまずまずと言えるだろう。ただ、機能分離の場合、電力会社は自ら所有している送電網を運用できず、レンタル料として送電料をもらうだけなので、中長期的に送電会社としてしっかり送電網に投資したり、送電会社同士でM&Aを通じて会社を大きくしたりするといった発想に乏しくなる。
だから欧州の人たちは、所有権と運用権は一致しなければいけないと主張する。法的分離はまだマシだが、機能分離はダメだと。所有権分離であれば、送電網を持っている主体が投資もする。それが大事なんだと強く信じている。米国のやり方は、欧州から見ると中途半端ということになるのだろう。
送電網の中立性を担保するISOの役割が重要
――日本での電力システム改革専門委員会の議論では、機能分離か法的分離という話になっています。
そうだ。私や八田(達夫)先生、大田(弘子)先生は法的分離を支持しているが、松村(敏弘)先生は機能分離がいいと言っており、意見が分かれている。どちらが一方的によくて、どちらが悪いということではない。
ただ、本当は所有権分離がいちばんいいという点では(改革派は)皆一致している。所有と運用が一致したほうが、いろんな齟齬は起きない。ただ私的所有権の問題もある。とりあえず法的分離をしておけば、送電部門にも送電会社としての独立心が芽生え、同じグループの中でも意識が変わってくる可能性がある。そうすれば、将来的な所有権分離につながりやすいのではないか、というのが私の考え方だ。実際、ドイツではそうやって所有権分離まで行っている。
また、今回の議論では、機能分離にするにせよ、法的分離にするにせよ、全国的なISO(広域系統運用機関)をつくるという方向になっており、そうであれば法的分離とISOの組み合わせのほうがベターだと私は考えている。
――ISOをどう機能させるかが重要ですね。
ISOは中立、公正なNPO(非営利団体)のような機関となる。人材的には、最初はある程度、電力会社の中央給電指令所(電気の使用量を監視しながら,電気の流れをコントロールする組織)にいる方々を移さざるを得ないだろう。ただ、意思決定に関わる幹部については、電力会社から独立した中立的な人をしっかり入れてマネージメントをしてもらうことが必要だ。
――人事権は誰が持つのでしょうか。
ISOのトップは経済産業大臣が任命する、電力会社からの出向は許さないといった方向にすべきだろう。大事なのは中立性をどう担保するか。ドイツのネットワーク庁のような独立した規制機関をつくり、監視することが望ましい。米国では、各州に公益事業委員会があり、発送電分離を推進したほか、連邦エネルギー規制委員会が送電事業の監督を行っている。
新政権による委員会答申の軽視や改革先送りに懸念
――日本での議論において、改革に対する電力会社側の抵抗はどうですか。
4カ月ぶりに議論が再開された11月7日のシステム改革委の議論では、電力会社側が発送電分離に対して、それまでよりかなり慎重、消極的になった印象があった。電力会社としては、これまでの発送電一貫体制を維持したほうがいいと思うのが当然かもしれないが、原発再稼働の遅れによる業績の悪化や、総選挙前で政権交代の可能性が高まっていたことも影響しているのではないか。
――総選挙後の政権交代によって、新政権はシステム改革委の議論をどこまで尊重するでしょうか。
システム改革委は「八条委員会」(国家行政組織法第八条に基づき、省庁の内局として設置される組織で、同法第三条に基づく「三条委員会」より独立性が低く、行政に対する強制力は持たない)であり、政府としてはその答申を煮て食おうが焼いて食おうが無視しようが自由。
ただ、これほど専門家が時間をかけて議論してきたことを、すべてガラガラポンにできるのかといえば疑問だ。自民党は原発再稼働について「3年以内に可否を判断する」としており、電力システム改革についてもそれに合わせて、やや時間を取ってやるということになるかもしれない。実質的な先送りの懸念はあるが、前向きな改革に期待したい。
東電処理とシステム改革は一対の問題
――公的管理下の東京電力を発送電分離のモデルにするとの議論もあります。
東電は今でも日本最大の電力会社であり、東電をどうするかはシステム改革委で議論してもいいぐらいだ。東電処理と国全体のシステム改革はほとんど一対の話といえる。しかし政府としては、東電は1企業であるし、原子力損害賠償支援機構との絡みもあるので、別問題として考えるべきということなのだろう。
政府は発送電分離として法的分離を志向しているように見える。その傍証として、政府の管理下にある東電は社内カンパニー制を採ろうとしている。広域のISOを強力な機関として一緒につくるのであれば、まずは法的分離でもいいだろう。
東電は送電事業特化、旧国鉄清算を参考に再生の仕組みを
東電は先日、福島の事故対応費用が当初想定の5兆円を大きく超え、10兆円を上回る可能性もあるとして、政府に新たな支援を求めた。これは、発送電分離を含む改革を受け入れるというシグナルともいえる。つまり、原発を含む東電のビジネスモデルの抜本改革が必要であり、その手段として発送電分離は止むを得ないということ。
その場合、選択肢として発電部門の切り離し(売却)が考えられる。東電の発電部門は今、厳しい状況にある。原発再稼働の展望が持てず、老朽火力発電所も多い。資金もない。であれば、発電ビジネスから手を引いて、送電ビジネスに特化したほうがいいのではないか。ただその場合、支援機構による支援の仕組みも変わってくるので、1企業だけでは判断できない。50%強の議決権を持つ政府(支援機構)が国策として考えていくしかない。
旧国鉄を清算する際にも、借金部分を切り離したうえで、残りの旧国鉄を地域分割して、民間企業として経営を立て直し、少しずつ借金を返していくという仕組みを作った。同様に、東電を一定のくびきから外し、その代わり発送電分離をする。世のため人のためになるような所有権分離の先駆けになってもらう。原発は国が管理下に置く一方、東電は送電ビジネスに特化して利益を上げ、少しずつ賠償、除染費用を返してもらう、といった仕組みが考えられる。
東電は日本全体の発電量の3分の1を占めており、東電の管内で発送電分離がうまくいって効果が実証されれば、他の地域でも同じ仕組みに変えていくのが望ましいという世論になるだろう。その意味でも東電は先行モデルとして適しており、それが東電自身の再生を早めることにもつながるので、頑張って欲しい。
たかはし・ひろし●1993年東京大学法学部卒、ソニー入社。2000年、内閣官房IT担当室主幹。07年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(学術博士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教を経て、09年より現職。経済産業省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員。同電力システム改革専門委員会委員。
(東洋経済)
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